20年間で、米国の家計金融資産は約3.3倍になった。日本は約1.5倍にとどまった。
この差について「日本人はお金を使わないから」という説明をよく聞きます。でも私はそれは違うと思っています。
本当の問題は、増えにくい場所にお金を置き続けてきたことにあります。
「日本人はお金を貯めすぎている」のではなく、「お金が育ちにくい仕組みの中に置いてきた」。この視点の違いが、これからの資産設計を考える上でとても重要です。
数字が示す「置き場所」の差
まず、日本と米国の家計金融資産の構成比を比べてみましょう。
同じ100万円を持っていたとして、日本では約半分が預金に置かれます。米国では約半分が株式・投資信託に置かれます。
この20年間、日本の預金金利はほぼゼロでした。一方、S&P500は年平均約10%で成長し続けました。
100万円を年平均10%で20年間運用すると、約670万円になります。同じ金額を預金(金利0.01%)に置き続けると、約100万2000円です。この差が、家計資産の格差として現れています。
日本人が悪いわけじゃない
ここで大切なことがあります。「日本人が投資をしてこなかったから貧しくなった」という単純な話ではありません。
1990年代以降の日本は、バブル崩壊・失われた30年・デフレという環境が続きました。その中で「預金が最も安全」という判断は、当時としては合理的だったのです。株式投資で大きな損失を被った人も多く、投資に対する警戒心が世代を超えて受け継がれてきた側面もあります。
一方でアメリカは、同じ20年間にIT革命・GAFA・AI革命が起きました。投資先の成長力そのものが違っていたという事実も、正直に見ておく必要があります。
日本人が「使わない」のではなく、「増えにくい場所に置いてきたため、安心して使えるほど増えなかった」。これが実態に近い。問題は国民性ではなく、置き場所の設計にあります。
また「保険・不動産・退職金制度」を通じて間接的に資産形成をしてきた日本人も多くいます。ただし、アメリカの401(k)やIRAのように、個人が直接株式市場の成長を享受する仕組みとしては弱かった。環境が変わったのに、置き場所が変わらなかったことが問題の本質です。
米国人は「使う前提」で資産を作る
米国と日本の最も大きな違いは、資産形成のゴールの設定にあります。
日本では「老後が不安だから貯める」が主な動機になりがちです。でも米国人は、最初から「何のために増やすか」を明確にしています。
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1老後の生活水準を上げる——自分のために使う退職後の旅行・趣味・セカンドハウス。「将来の安心を買うために運用する」という発想で、使う前提で資産形成している。
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2住宅資金——不動産と運用の両輪米国では住宅の買い替え・住み替えが頻繁で、運用資産の一部を頭金や住み替え費用として活用する。不動産と金融資産の両輪で資産形成が行われる。
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3教育投資——子ども・孫への投資大学費用が年間400万〜800万円というケースも珍しくない。「教育は最高の投資」という文化が根付いており、増えた資産を人への投資に喜んで使う。
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4事業投資・転職・起業の原資キャリアの流動性が高く、起業・学び直し・移住などの資金として運用資産を活用する。自己成長とキャリアアップへの投資として資金が回る。
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5寄付・社会への還元富裕層だけでなく中間層でも一定の寄付を行う文化がある。資産形成→社会への還元が自然なサイクルとして成立している。
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6相続・世代間移転生きているうちに「どう使い、どう渡すか」を計画的に考える文化がある。生前贈与・信託による資産承継が積極的に行われる。
「使う前提」でお金を育てるからこそ、投資に対する意識が前向きになり、好循環が生まれています。
米国を美化しすぎない——冷静な視点も必要
ここは正直に書いておきたいと思います。
米国を参考にすることは大切ですが、「米国=理想」という単純な見方には注意が必要です。
クレジットカード債務・学生ローン問題・老後破産も米国では深刻です。「成功者が大きく成功する」社会の裏側には、格差の拡大という問題もあります。全員が資産形成に成功しているわけではありません。
また「日本人は使うのが下手」という表現も、少し乱暴です。増えにくい環境に長年置かれてきたために安心して使えなかっただけで、使い方の文化の問題だけに矮小化するのは正確ではありません。
大切なのは「米国のマネをする」のではなく、「自分の人生のゴールから逆算して、お金の置き場所と使い方を設計する」という発想の転換です。
これからの発想——置き場所と使い方を一体で考える
整理するとこういうことです。
日本人が豊かになれなかったのは、お金を使わなかったからでも、貯めすぎたからでもありません。増えにくい場所にお金を置き続けてきた歴史があるということです。
だからこれからは「預金か投資か」の二択ではなく、こう考えることが大切だと思っています。
生活防衛資金(半年〜1年分の生活費)は預金で守る。10年以上使わないお金は、世界経済に働いてもらう。そして資産形成のゴールは「お金を増やすこと」ではなく、「子どもの教育・家族旅行・やりたい仕事への挑戦」など、自分らしい人生を実現すること。
70歳で5000万円あっても「足りなくなったらどうしよう」で使えない人生と、3000万円でも「これで旅行に行こう・子どもの学費にしよう」と使える人生。どちらが豊かかは、金額だけでは決まりません。
資産形成の本質は「増やすこと」ではなく「自分の人生に還元すること」です。その出発点として、まず今のお金の置き場所を見直してみることが、一番大切な一歩だと思っています。
日本人が本来手にできたはずの豊かさに、
ようやく手を伸ばす時代が来ています。
置き場所を変えることが、人生の選択肢を増やすことになる。
そのために、今日から設計を始めましょう。